決済システムのすべて

決済システムについて説明した有名な本である。これは第3版。日本国内だけでなく、近年の世界各国の決済システムの変更内容を反映し、統計情報も新しくなっている。アジアや新興国も含めて2010年末時点で139か国中116カ国がRTGSシステムを導入済みとなったことから、RTGSについては比較的手厚い。DTNSとRTGSのハイブリット・システムの特徴についても載っている。尚、DTNSとRTGSの特徴については、以下のようにまとめられている。DTNS・決済リスク：（△）最終決済時点まで決済リスクが残存・流動性：（○）少ない流動性で決済が可能・事務負担：（○）最終決済のみの手配RTGS・決済リスク：（○）即時のファイナリティあり・流動性：（△）多くの流動性が必要・事務負担：（△）流動性管理の負担大米国のFedwire（中央銀行）とCHIPS（民間主体）、ユーロ圏のEURO1（大口）、STEP1とSTEP2（小口）、TARGET（ユーロ圏各国のRTGSをリンク）及びTARGET2（SSPによる中央集権型の機能強化版）、英国（ユーロ圏とは通貨及び決済ともに独立）のCHAPS（大口）やBacs(小口)についても詳しい。もちろん、日銀ネットや全銀は普通に登場するし、2014年以降に稼動する新日銀ネットの概要仕様も掲載されており、例えば電文形式はXMLのみとなることや、稼働時間延長、共通担保の一元化、RTGSへの一本化、といったことが紹介されている。電子マネーの普及や債券電子化といったトレンドについても章が設けてあるが、あくまでも簡単な紹介程度であり、ページ数もわずか。SWIFTの説明も最後の3ページだけである。決済システムの重要な使命は、決済業務の安定稼動と同時に、決済リスクの低減であるといえ、この点でも前半にいくつかの例が載っている。例えば、リーマン･ブラザースの破綻（2008年9月）においては、各国中銀による市場への潤沢な資金供給もあって、資金決済のデフォルトが連鎖的に発生する事態が避けられたこと、外為市場では多通貨決済を行うCLS銀行が有効に機能して円滑な決済が維持されるなど、それまでに決済システムに組み込まれた決済リスク削減策が有効に機能する機会になった。また、東日本大震災では、日銀ネット、外為円決済、全銀システムは、通信規制や決済時間延長をとりつつ安定稼動を続けた。ただし、一部大手行でシステム障害が発生し、一時被災地の約5割手形交換所が休業するといった影響が出ており、バックアップシステムの重要性が認識される機会になったということだ。