パーソナリティ障害・摂食障害 (精神科臨床ニューアプローチ 5)

編著者の市橋秀夫氏は、境界性パーソナリティ障害患者が引き起こす操作性に対して、病院やデイケアなどの医療機関において複数のスタッフがチームで対応する際の指針を簡潔に提示した「ボーダーラインシフト」を提唱し、精神科医療におけるBPD対応の標準化に多大な影響を与えた、パーソナリティ障害の臨床における第一人者。本書においては、BPDのみならず、市橋氏のもう一つの専門分野である自己愛パーソナリティ障害（NPD）についても、極めて独創的かつ臨床的な提言がなされている。氏の記述は極めて臨床的であり、「手のかかる」「話の通じない」「依存的な」「プライドの高い」「やっかいな」患者とどっぷり向き合って大変な思いをした医療従事者ならば、必ずやパーソナリティ障害圏の患者の理解および対応について明日から実践できるヒントを得ることができるであろう。特に、都市部において近年激増している自己愛パーソナリティ障害について臨床的な記述および具体的な初診時の対応、治療指針、家族対応について簡潔にまとめられている点は、類書にない特色といえよう。また、従来「神経症圏」として扱われるが故にその病態理解および治療方針について定説の定まらなかった摂食障害について、「自己愛の病理」として「パーソナリティ障害圏」に位置づけることで画期的な治療論の展開を提示した市橋氏の慧眼には脱帽するしかない。分担執筆者もそれぞれ著名な大家であり、内容は非常に充実している。初心者にとっても親しみやすい簡潔な構成でありながら、そのエッセンスは極めて本質的で濃厚な１冊である。ここまで絶賛するのは、私自身一読してクラクラしたからである。買って後悔した、損したと感じることはまずないことを保証する。