東條英機と天皇の時代 (ちくま文庫)

保阪正康。ここにレビューする人にはあらためてご説明の必要はないと思います。昭和のキイパーソン数千人と面談して超人的な面談記録を誇る昭和に関する著作の第一人者です。保阪さんが等身大の「東條英機」を冷静な筆致で書ききる、といった並並ならぬ覚悟が本書には随所に見られます。最近の保阪さんの著作は年齢故かやや感情的な筆致を感じることがありますが、本作品は抑制的な筆致で淡々と語られています。脂の乗った保阪さん壮年期の著作の傑作のなかの一つと思います。東條英機。日本人には軍閥の代表格で複雑なイメージを呼び起こします。しかし実際は当時の日本人の良い面、悪い面を全て備えた人物だと思います。長所：真面目、几帳面、誠心誠意、決断力あり、人情味がある短所：直情径行、偏狭、感情的、柔軟性に欠ける、精神論者、陰湿、側近の重用会社でもサークルでもよく存在する人物だと思います。こいった人物が戦争時代のリーダーになった事が日本の悲劇だったと思います。しかし、東條英機以上の人物を出せなかった日本の限界もあります。また、重臣や内大臣は保身に走り敗戦の責任を東條に押し付けようとする無責任体質も日本の抱える病理だと思います。良くも悪くも東條英機は当時の代表的人物ですし、彼の東條を許したのも日本です。現在も外交、戦争、国益、組織的利害、出身地、個人の出世、こうした問題が昔も今も未解決な問題として横たわっています。現在の日本でも東條時代の保身、組織利益重視、無責任体質が随所に見られます。平成２７年現在の日本は長州系の安倍首相ですが、東條英機が直面した問題が現代によみがえって今も同じ問題を突き詰めています。政治、経済、外交、安全保障、軍備、資源、経済、門閥・・・過去と現在は条件も全て異なる訳ですが、東條英機を知る事で現在の問題も改めて知る事にも繋がると感じました。日本の課題を解明し、解決のヒントになる東條英機の人物伝と思います。